ケーンの読書感想文「残照」
どうも、ケーンです。
今回は本当に久しぶりの読書感想文になります。取り上げるのはこちら。
「残照」(祥伝社、著者:田中芳樹)
前回の「白銀騎士団」に続き、田中芳樹作品。ジャンルは歴史小説です。
中国史上ただひとり、陸路で地中海に達した武将がいた。男の名は郭侃(かくかん)。祖父の代からモンゴルに仕え、攻城戦と砲術に長けた漢人だった。1253年モンゴル帝国は、イスラム世界の制服とさらなる領土拡大のため、「フラグの大西征」を開始。37歳の郭侃は、15万の蒙古軍部隊長として西方遠征の途についた。新兵器「回回砲」をひっさげ、瞬く間に各地を陥落させる。だがエジプトを前に、隻眼の猛将バイバルスが立ちはだかり…。(帯より)
中国の名将、郭侃(かくかん)の生涯を描いています。
郭侃の名は、氏がかつて著した「中国武将列伝」(中公文庫)にも記述があります。中国史上、陸路で最も西へ行った武将として紹介されており、イスラムの軍隊どころか、ヨーロッパの十字軍とも戦った、とされており、当時これを読んだ私は驚きました。しかも連戦連勝、敵から「神人」とまで呼ばれ畏れられる無敵ぶり。しかし残念ながら日本ではまったくの無名です。昔ほどではないですが、日本はまだまだ中国史と言えば三国志、という風潮がありますね。
以前から日本では無名の中国人武将を発掘しては、それを題材にした小説を発表してきた田中芳樹。その彼がついに郭侃を書いたか、と思うと、否が応でも期待は膨らみます。
そして読んだ結果、オススメ度は…。
★★★★☆になります。
いやあ、氏の壮大な歴史絵巻、堪能させていただきました。
ここでみなさんに間違えてほしくないのは、これは「歴史小説」であって「戦記物」ではないということ。血沸き肉躍る合戦シーンの連続を期待して読むと、拍子抜けして星4どころじゃなく落胆します。氏がやっているのは、日本では無名の武将・郭侃の活躍を描くと同時に、その視点を通じて背景の歴史を描くこと。もちろん郭侃は武将ですから戦闘シーンはありますし、そこは間違いなく面白い。ですがその他にも、郭侃とは直接関係のない人物のエピソードや歴史事実などが頻繁に語られています。そのあたりが戦記物とは違うところで、時に難解で退屈に感じる人もいるかも知れません。でも、そこが歴史好きにはたまらないところでもあるんですよねえ。
さて、では星1つ減点した理由は何か。
これはもう、歴史事実なので氏にはどうしようもないことなんですが、郭侃が仕えたモンゴル帝国の残虐さです。
降伏すれば助けるが、逆らえば皆殺し、がモンゴル軍の基本。だから抵抗の末に陥落した城は血の海になります。それはもう、相手が民間人だろうと、女子供であろうと関係なし。皆殺しにしたうえ、財宝を根こそぎ略奪し、最後には建物に火を放ちます。
もちろん郭侃が率いる漢人部隊はそんなことはしなかったし、モンゴル人武将の中にも良識ある者はいましたが、それはごく一部。だからどうしても郭侃に感情移入はできても、彼が属したモンゴル軍にはちょっと…という気分になっちゃうんですよね。もう史実なので、本当に仕方ないんですが。「大蒙古帝国の大西征」なんていうといかにも壮大ですが、侵略されるほうにしてみればたまったものではないですからね。
というわけで、まだ知らぬ名将・郭侃の活躍を楽しめて、かつモンゴル帝国の歴史にも詳しくなれる一石二鳥(?)な一冊。
歴史好きな方にはぜひ。
それではまた。
ケーンでした。