ケーン、絵を買う。
どうも、ケーンです。
昨日、札幌で開催されている「ファンタジーアート展」に行ってきました。
日本が生んだ世界的画家、天野喜孝氏の絵画の展覧会でした。
天野喜孝氏といえば、もうたぶん日本で知らない人はほとんどいないでしょう。名前だけでピンと来ない方には、これをどうぞ。
ああ、これか!! って思った方もいるのではないでしょうか? そう、ゲーム「ファイナルファンタジー」(略称FF)シリーズのイラストで有名な人です。まだプレイステーションもなかった時代、ファミコンソフトのFFⅠ~Ⅵまではキャラクターデザイン、パッケージイラストも手掛けていました。Ⅶ以降はキャラクターデザインこそ交代しましたが、コンセプトデザインやロゴデザインとして関わっています。
他にも小説の表紙や挿絵など色々描いていますが、いちばんメジャーなのはこれでしょう。
その天野先生の展覧会が札幌であるというので、たまたま札幌まで赴く用事があったため、立ち寄ってみたのでした。ファイナルファンタジー好きだし、天野先生の絵も、最初に見た時こそ「何だこれ?」と思いましたけど、その精緻で繊細なタッチはすごいな、と思うようになっていたので。
ただね、こういう展覧会って、販売目的もあるんですよ。美術館と違って、静かに見せてくれない。おもむろに近寄ってきたスタッフが色々絵について解説して、言葉巧みに売ろうとする。昔、ラッセンの展覧会に行ったときがそうでした。絵って2~3万の買い物じゃないんですよ。ゴッホとかピカソではないですが、天野先生も世界的に有名な画家ですから、軽く50万とか100万とかの買い物になる。さすがにそれは手が出ません。1年分のボーナス飛びますからw なので、「買わないぞ、買わないぞ」と心に強く言い聞かせながら会場入りしました。
ファンタジーアート展、と銘打っているだけあって、やっぱりFF関連の絵が多数飾られていました。ど真ん中に鎮座していたのはやっぱり上に挙げたFFⅥのパッケージイラストでしたが、他にもたくさん。Ⅶ以降のキャラクターを描いたものもあり、「ああこれはスコールとリノアだ」「ライトニングじゃん」などと見入っていると、早速スタッフの方が。
「FF好きなんですか?」
「ええ、まあ一通りやりました」
「そうですよね。TシャツもFFだし、気合入っていらっしゃる」
「え? あ、そうっすね」
これはまったくの偶然なのですが、この時私は、FFのロゴ入りTシャツを着ていたのでした。やばい目をつけられたか!!
「僕もFF好きなんですよ。天野先生の作品はFFで知って…」
「ああ、そうなんですね」
そこからしばしFFと天野先生の関わりや、天野先生の絵の素晴らしさについてトーク。しかし営業モードにはシフトせず、「ゆっくりご覧になって下さい」と解放してくれました。
ホっとして次の絵へ。FFの次に展示されていたのは、「吸血鬼ハンターD」という小説の挿絵でした。これも有名ですが、かなり古い小説なので知らない方も多いかも知れませんね。私も2、3冊読んだ程度でハマりはしなかったのですが、Dのダークな世界に天野先生の絵がすごくマッチしていたのは覚えていました。
そして、展示されていた絵はすごくよかった。Dの佇まいといい、背景の雰囲気といい、一つの作品として見て素晴らしいと思えました。
会場はそんなに広くないので、次の、天野先生が時々描くポップでかわいい系のイラストを何点か通過すると、最期の展示へ。
この絵が最後で、そこにはさっきのスタッフさんが待ち構えていました。
「これが先生の最新作です!!」
天野先生も御年70。新作を描かなくなって久しい先生が久しぶりに筆を取った作品がこれ。
これが何か、私は知っていました。私が大好きな小説家、田中芳樹先生の小説の表紙だからです。
「知ってます。創竜伝の最終巻ですよね」
「そうです!! よくご存じで!!」
「いや、田中芳樹好きなんで」
「そうなんですか!!」
「田中芳樹って遅筆で有名なんですけど、天野先生に『そろそろまた四兄弟(創竜伝の主人公)を描きたいですね』って言われて恐縮したみたいですよ」(←ちょっとトリビア披露してみた)
「へえ~、めちゃくちゃ詳しいじゃないですか!!」
「いや、まあ…」(←まんざらでもない気分)
「ちなみにここまで見られて、いちばん気に入った作品はどちらですか?」
「うーん…FFも良かったけど、やっぱり田中芳樹ファンとしては創竜伝かな」
「いいですよねこれ!! ちなみに絵って、ライトの当て方でがらっと雰囲気変わるんですよ。よかったらお席で見てみませんか?」
なるほど、ここから徐々に営業モードか。でもまあ、見るだけならいいか。興味あるし。
そう思って、誘われるまま席へ。スタッフさんは絵をイーゼルに掛けて、ライトを色々な角度から当ててみる。ぶっちゃけそんなに違うか? っていうのが正直な感想でしたが、もう1枚、私が気になったDの絵でやってみると、これがすごかった。もともとダークな作品だけに、全体に暗めに、かつ、朝日が差し込むように上から徐々にライトを当てていくと、雰囲気倍増。思わず見入ってしまいました。
そんな私の様子に「脈あり」と見たのか、スタッフが交代。今度は女性でした。
その女性スタッフはFFではなくDから天野先生に魅了されたらしく、他の小説も読んでいるという。創竜伝も読破済でした。私も男ですから、女性と話すのは楽しいし、それが好きな小説の話となるとより楽しい。もう完全に営業モードの彼女でしたが、トークを楽しみつつ、「買わない理由」を私は探し当てていました。
それはこの展覧会の唯一の弱点。私の大好きな小説の絵がなかったのです。
スタッフさんの話がひと段落した頃合いを見計らって、私はその一言を放り込みました。
「実は私、初めての天野先生との出会いは『アルスラーン戦記』なんですよね」
アルスラーン戦記。それは創竜伝と同じ田中芳樹先生の小説で、1986年から角川文庫で刊行が開始された作品です。天野先生はその表紙と挿絵を担当していました。ただし、田中先生のあまりに遅筆ぶりに業を煮やした角川書店は完結を待たずに版権を放棄。その後、光文社が版権を買って1巻から改めて刊行され、無事完結を迎えますが、イラストは天野先生とは別のイラストレーターに変更されました。なので、アルスラーン戦記の天野先生の絵を知っているのは、今は絶版となっている角川文庫版を読んでいた人だけ。
私はリアルタイムで角川文庫版から読んでいたので知っていましたが、今の世代の人は知らないだろう。実際、この展覧会にもアルスラーン戦記の絵は見当たらなかった。なのでスタッフさんが「ごめんなさい、ここにはないんです…」と言うと思っていたのですが…。
「ほう!!」
とスタッフさん。その表情は困惑ではなく、「我が意を得たり」の顔。
スタッフさん、アルスラーン戦記の事知ってました。まあ天野先生の絵を扱ってるんだから、知識として知っていて当然か。でも展示はなかったし…。
「実は、展示はしていないんですが、裏にあるんですよ」
「え」
「天野先生から、本当に見たい人がいたら出してくれと言われていて。持ってきます? ダリューン」
「ダッ…!!」
ダリューンだとッ!?
ダリューンは、アルスラーン戦記の登場人物で、主人公である王太子アルスラーンの第一の臣下。義に厚い武将で、「戦士の中の戦士」との異名を持つ、超絶に強くてかっこいい黒衣の騎士。角川文庫版でも表紙を飾っています。
ダリューン、めっちゃ好きです。ありとあらゆるメディアの中で「最強の騎士」と言えばダリューンを真っ先に思い浮かべます。愛馬も黒で、「黒衣黒馬の騎士」なんて、ビジュアル的にもかっこいいに決まってるじゃありませんか!!
「見ますッ!!」
一も二もなくそう答える私なのでした。
そうして持ってこられたダリューンの絵は…。
か、かっこええ…。
もはやため息しか出ない。
「このダリューン、当時限定100枚しか刷っていないので、今ならもう150万はしていいものなんです。でも、天野先生がどうしても当時の価格で譲りたいと言って、この価格なんです」
提示された金額は、50万円。ボーナス1回分が吹き飛ぶ額です。何なら車だって中古なら余裕で買える。しかし、この絵は…。
「お客様がアルスラーン振ってくれなかったら、出なかった絵です。これってもう奇跡ですよ!!」
いや、たぶんマニアックすぎて展示リストから外されていたのだろう。しかし、私がそれを掘り当ててしまった。アルスラーン戦記で天野先生の絵を知ったのは事実。今でもアルスラーンの世界観と天野先生の絵はすごくマッチしていると思う。
購入を断ろうとして口に出した単語が、とんでもないものを導き出してしまった。これはもう…運命?
「在庫、確認してきますか? 100しか刷っていないものですから、ないかもしれませんので」
「お、お願いします…」
いったん引っ込んで戻ってきたスタッフさんは笑顔でした。
「ありましたよ!! 天野先生のマネージャーさん、言ってました。今もダリューンのこと知っていて、それを求めてくれる人がいるなんて、きっと先生喜ぶだろうって」
…完敗だ。
私は負けを認めました。
アルスラーン戦記は、完結こそ微妙だったものの、田中芳樹作品の中では「銀河英雄伝説」を抜いて一番好きな作品です。その中でも大好きなキャラクター、ダリューン。
こんなものを出されたら、もう断れない。「天野先生喜びます」なんて殺し文句言われたら、なおさら。
「ぶ、分割でお願いします…」
「もちろんです!!」
かくして私は、契約スペースへと誘われるのでした。
お届けは11月になります、というので、11月26日を指定しました。その日は私の誕生日。自分へのちょっと、いやかなり贅沢なプレゼントだと思えばいい。分割は60回、5年です。人生初のローンを、まさか絵で組むことになるとは。車を買ったときだって一括だったのに。
しかし、絵のある生活か…。
まあ、悪くないかもな。
会場を後にしようとする私を見送ったのは、最初に応対してくれた男性スタッフでした。名刺をくれる時、彼は言いました。
「実は私、新卒なもので…」
なるほどね。大卒だとすると、22、3歳。FFは知っていても、小説の、マニアックな部分になると太刀打ちできないとわかって交代したわけか。いい判断だったと思うよ、青年。キミの勤務評定アップに貢献できたなら、まあよしとしよう。
それよりも…。
ダリューンをお迎えするまでに、部屋を片付けておかなければ!!
そう決意してぐっと拳を握りしめて、私は帰路につくのでした。
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