ケーンの読書感想文「白銀騎士団」
どうも、ケーンです。
読書感想文、今回はこちら。
光文社「白銀騎士団」(著者:田中芳樹)
帝国主義に覆われ、軍靴の響きが近づく1905年のロンドン。霧の垂れこめた街には夜ごと怪物が跋扈していた…。けれど、この街には暗鬱な空気に立ち向かう「白銀騎士団」がいる。腕利きの従者の中国人・李、インド人・ゴーシュ、負けん気の強いメイドのアイルランド人・アニー、そして若き准男爵にして団長のサー・ジョセフ。個性豊かな面々がロンドンの平和を守り、貧乏貴族から脱するため、はびこる悪と今日も戦う!(帯より)
「銀河英雄伝説」や「アルスラーン戦記」有名な田中芳樹の新作です。まあ厳密には、2005年に発表した短編に書き下ろしを加えて一冊の本にしたもので、ストーリーとしては短編一本、中編一本というところです。
ジャンルは冒険小説。
田中芳樹は色んなジャンルの小説を書きます。SFからファンタジー、歴史もの、冒険もの、アクションなどなど。書いていないのは、ミステリーと恋愛ものくらいでしょうか。得意なのは歴史ものですね。歴史小説も書きますが、「銀河英雄伝説」だってSF世界を舞台にした歴史ものですし、「アルスラーン戦記」も一見ファンタジーですが実は架空歴史小説。「創竜伝」は超能力アクションと思わせておいて、実は中国の歴史・伝説が深く関わってくる。
冒険小説といえば、デビュー作が冒険小説でしたが、これは記録的に売れなかったといいますw 私には面白かったですけどね。
最近だと、「ビクトリア朝怪奇冒険譚三部作」があります。これも19世紀の英国を舞台にした冒険もので、面白かったです。
田中芳樹の小説は、歴史ものが好きなこともあって、背景世界がしっかりしてるんですよね。そしてその中で、登場人物が生き生きと動く。キャラクター造形もうまいんですよ。真面目で正義感の強いヒーローとか、美人でおしとやかなヒロインとか、そういうステレオタイプなキャラクターはあんまり出てきません(アルスラーンとアンネローゼくらいかな?)。脇役にも何かしらの個性がある。たとえ敵であってもね。
この小説の主人公もそう。騎士団長で准男爵という肩書だけ聞くと、堅くて真面目な人物の印象がありますが、サー・ジョセフはぜんぜん違います。本人は自分は英国紳士だと言いますが、ぜんぜんらしくない。まず、貴族なのに従者に頭が上がらない。もっと言えばメイドの少女(もちろん年下)にだって尻に敷かれています。お金にだらしないからいいオトナなのにお小遣い制だし(財布は従者が握っています)、女性に弱くてちょっと美人を見ると口説こうとする。
でも、それを補って余りある美点があります。それは「物事を正しく見られること」(ただし女性を除く)。
サー・ジョセフは英国貴族で母国に忠誠を誓っていますが、同時に母国がどんなに悪いことをしてきたか理解しています。英国はインドや南アフリカを植民地にしたし、中国にアヘンを密輸して巨額の利益を得、中国がこれに反発すると戦争をしかけました(アヘン戦争)。人種差別も平気でしていました(これは英国に限りませんが)。東洋人やアフリカ人は西洋人より下だと見下し、差別したり、奴隷にしたり、売ったり買ったり。それらを理解しながらも、母国に対する忠誠心は捨てられないでいる。心中複雑でしょうが、本人はいたってあっけらかんとしていて、従者の中国人・インド人コンビをぞんざいに扱ったりはしていません。こづかいが少ないと文句を言いながらも、「従者のくせに主人の言うことが聞けんのか」と頭ごなしに怒鳴って命令したりはしないのです。
劇中で、サー・ジョセフは敵にこんな罵詈雑言を浴びせられています。
「何をえらそうに。イングランド人のくせして。全世界の嫌われ者! 阿片の密売人! 遺跡荒らしの墓泥棒! 味覚オンチ!」
サー・ジョセフは何も言い返せませんでした。アヘン戦争は言うに及ばず、英国は世界各地の遺跡や墓(ピラミッドとかね)を荒らして宝物を持ち帰ったし(それらは今も大英博物館にあります)、英国の料理が、例えば当時のインドや中国に比べれば格段に不味かったのは事実でしたからね。
そんな彼でも、やる時はやります。でもやっぱり、事件が終わると従者にたしなめられたり、メイドに叱られたりするわけですよ。
このへんのさじ加減がうまいんですね。決してかっこよくはないんだけど、でもちゃんと主人公として立っている。ここはさすが田中芳樹だなあ、と思いました。
では文句なしの★5なのかというと、残念ながらそうではありませんでした。
新作発売の予告があった時は、すごく期待したんですよ。長年の田中芳樹ファンですから。
舞台が1905年。20世紀初頭ですから、田中芳樹のこと、当然、歴史的要素も詰め込んだ冒険小説になる。予告を見る限り、キャラもみんなひとクセあって面白そうだ。彼らがどんな大冒険を繰り広げるんだろう? 田中芳樹お得意の毒舌漫才もあるのかな?
長年続いてきたシリーズ(「アルスラーン戦記」や「創竜伝」)を完結させてしまった田中芳樹の、新たな代表作となるか?
そしてもちろん、書店に入荷されてすぐにゲット。帰りのJRですぐに読み始めました。
で、感想。
うん、田中芳樹作品だったね。
面白かったです。でも。
田中芳樹らしいキャラクターが、田中芳樹らしい冒険をして、田中芳樹らしい敵と戦って退治した。
そう思っちゃったわけです。予想を超えてはこなかったんですよ。
まあ私は田中芳樹のキャラも台詞回しも好きですし、ストーリーテリングも好きです。最近巷に溢れてる、やたらタイトルの長いライトノベル(中には面白いものもありますよ、もちろん)に比べても遜色ない。
まだ田中芳樹作品に触れたことのない方には、ぜひオススメしたい。
田中芳樹が好きな人も楽しめるでしょう。ですが往年のファンが「唸る」かというと、そこまでではないように思うのです。
今はまだ、ね。
物語はさらに広がるかのような伏線を残しています。今回は舞台がロンドンのシティ・アドベンチャーでしたが、これがシリーズ化されて、やがては世界規模の大冒険へと進んでいくのか。そうなると「化ける」かも知れませんね。
ってことで、今回は、
オススメ度 ★★★★☆
としておきます。
一読の価値あり。でも往年のファン目線からすると今後に期待!! ということで。
それではまた。
ケーンでした。
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