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2022年3月27日 (日)

ケーンの介護日記 その5~嵐と大整理~

 3月5日、土曜日。

 その日の朝は私も母も、少し遅めに起きました。

 いつものパターン。私が1階の居間に降りて、セキセイインコのレトを起こし(起こすといってもカゴにかけた毛布を取り払うだけで、本人?はとっくに目覚めていましたが)、朝食のパンを食べていると、母が起きてくる。まだちょっと眠そうな顔で。

「おはよう。パン食べる?」

「うん。その前にトイレ」

 母がトイレに入っている間に、玄関からパンの入った袋を持ってきます。私はパンを食べ終え、朝の薬を飲んでからレトの世話。エサと水を取り換え、止まり木についたフンをティッシュで拭き取ります。その間に母は椅子に座り、袋からあんぱんを取り出して食べ始めました。

「…今日、来るの、昨日の人?」

「Oさんのこと? ううん、今日は来ないよ。月曜日から。今日は、俺たちが病院に行くんだよ。S内科」

 私と母は、月に1回、S内科クリニックに通っています。ふたりとも、病名は高脂血症。つまりコレステロールが高いのです。特に私の高脂血症はけっこう深刻で、健康の人の総コレステロール値が上限200なのに対し、私は薬を飲まなければ350超。時には400を超えたこともあり、その時は医者に「放っておいたら死ぬよ」と言われたのでした。

「先月行ったでしょ? もう1ヶ月過ぎたから、俺、もう薬ないんだ。母さんもないでしょ?」

「母さんのはあるよ」

「うそ。ほんとに?」

「うん」

 私はちょっと戸惑いました。S内科にはいつも私と母は一緒に受診していて、処方される薬は違うものの、量は30日分のはず。私が切れているのに、母の薬だけ残っているというのは妙でした。

「もしかして、時々の飲み忘れたりしてる?」

「…そんなこと、ないと思うけど…」

 と、母はちょっと自信なさげ。その時はわざわざ母の薬カゴを取り出して確かめたりはしませんでした。

「うーん、変だね。でもまあ、どうせ俺は行かなきゃだし、ついでだから一緒に行こう?」

「うん」

 出発を10時と決めて、私はいったん自室に引き上げます。何となくTVを見て過ごし、9時半から身支度を整え、居間に降りると、母も準備ができているようでした。

 9時45分に出発。車で国道を10分ほど走ると、S内科に着きます。受付で診察券と保険証を提出。母も保険証は出しましたが、診察券が見つからない様子。財布を開いて、色んなカードを出したり引っ込めたりしています。そういえば先月来た時も診察券が見つからなくて、受付の女性に「今日はいいですよ。次までに見つからなかったら、新しく作りましょう」と言われていたのでした。

 結局母の診察券は見つからなかったので、新しく作ることに。それと、新型コロナのワクチン接種の予約ができるかと質問。母は75歳の高齢者なので、もう3回目接種の接種券が市役所から届いていたのでした。

「予約は、今だと早くて4月13日になりますけれど」

「4月13日というと…ええと」

「水曜日です」

 S内科ではワクチン接種は週に1回、水曜日のみと決まっているとのことでした。仕方ない、その日、何とか休暇を取るか。私は4月13日の予約をお願いして、母の接種券を提出。受付の女性はそれを確認すると、予約日を記したメモをくれました。

 それから待合室で待機。まず母が呼ばれ、診察。それから少しして、私の番になりました。

 医者のS先生の診察は短い。前回の血液検査の結果をちゃちゃっと説明すると、血圧を測り、「うん、悪くないね。じゃ、いつもの薬を30日分出しとくから」で終了…しようとしたところで、私は留まり、ちょっと追加の質問をしてみました。

「先生、母のことなんですけど…診察の時、何か気になりませんでした?」

「お母さん? 一目見ただけでわかったよ。気分も春モードで行きましょう、って言っておいたから」

 ああ、うつ病のことか。S先生は母がうつ病で市立病院に通っていることを知っています。先生には今日の母が、元気がなく、うつ症状が出ているように見えたんでしょう。

 まあ、内科の先生だからな。認知症まで看過しろって思うほうがちょっと酷か。

 苦笑しながら、私は母が認知症かも知れず、近く専門の病院にかかる予定でいることを告げて診察室を後にしました。

 診察を終えると程なくして名前が呼ばれ、会計窓口へ。私は二人分の診察料を払うと、領収書と処方箋、それから母の新しい診察券を受け取りました。そして、薬局には私が行くことにして、母に車のキーを渡します。

「薬取りに行ってくるから、母さんはいつも通り、車で待ってて」

「うん」

 薬局で二人分の薬を受け取って戻ると、ちょっとトラブルが。車のドアが開かない。母は助手席に座っています。何をどうしたのかわかりませんが、中からドアをロックしてしまったみたいでした。

「ちょ、母さん、鍵開けて、鍵!!」

「…どうしたらいいの?」

 車のキーは母の手の中。これはもしかしてインキーというやつか、などとしようもないことを考えながら、あたふたと母に外から指示します。

「とにかくドア開けて、ドア!!」

 母はしばらく悪戦苦闘した末に、助手席のドアを開けました。私は回り込んで、母からキーを受け取り、運転席側のドアを開けてすべり込む。

「あーびっくりした。母さん、何したのさ?」

「わかんない」

「わかんないって…中に人がいるのにインキーなんて笑えないよ。まあ、開いたからいいや。帰ろう?」

「うん」

 車を発進させながら、私は考えました。今日の予定は、とりあえずもうない。帰ったら昼ご飯食べて、それからゆっくり過ごそうか。

 ところが、そうはなりませんでした。

 私は失念していたのです。妹からの、一通のメールを。

 

 

 帰宅して少し経ち、そろそろ昼食を取ろうかと思った頃。

 ピンポン、ピンポン、ピンポーン!

 玄関のチャイムがけたたましく鳴って、こちらの返事も待たず、ドアが開かれる音。慌てて玄関に出ていくと、小さな人影が飛び込んできたところでした。

「来たよー」

 そう笑顔で言ったのは、続いて入ってきた人物。それは妹でした。そして小さな人影の正体は。

「おじちゃん!!」

 妹の娘、つまり私の姪にあたる5歳児なのでした。

 しまった、忘れていた。

 その時になって、私は思い出しました。「明日の昼、遊びに行くね」という妹からのメールを。

 妹の旦那も一緒でした。

「マック買ってきたよー」

 妹が大きな紙袋を掲げて見せます。みんなで食べよう、ということのようでした。

 妹一家が居間に入ると、母は微かな笑顔を浮かべました。

「ばぁば、こんにちは!!」

「はい、こんにちは」

「レト~、こんにちは!!」

「ぴよ」

 場が一気に明るくなり、賑やかな昼食が始まりました。妹が手早くハンバーガーとポテト、ドリンクを並べて行きます。私にはスパビー、母にはチーズバーガーが手渡されました。姪っ子には5歳児らしくハッピーセット。50目前のおじさんにはよくわからないおもちゃに夢中になっていました。

 まあ、たまにはこんな食事もいいか。私はそう思いながら、ハンバーガーをかじりました。姪っ子は贔屓目に見ても可愛い。母にとっても当然、孫は可愛いだろう。孫の明るさが、母の心の癒しになってくれるといいのだけど。唯一の心配は、元気すぎる孫の相手をして疲れないか、ということだが…まあ、明日は日曜日だし、予定もないし少しくらい疲れても大丈夫だろう。

 ところが。

「おじちゃん、遊んで!!」

 姪っ子のターゲットは、私だったのでした。

 5歳児、それはまるで嵐。そのことを、私はそれから改めて思い知るのです。

「おじちゃん、かたき(ボールをぶつけあう遊び)しよ!!」

「おじちゃん、ドッジボール(やっぱりボールをぶつけあう遊び)しよ!!」

「おじちゃん、オセロしよ!!」

「次はかるたしよ!! ばぁばも!!」

 姪っ子は明るく元気いっぱいです。そんな姪っ子と遊ぶのは楽しいのですが、如何せんここ数日は色々なことがありすぎた。姪っ子の「〇〇しよ!!」に応えるたびに、どんどん体力が削られていく自分を自覚していました。それでも、

「おじちゃん、2階行こ!!」

 そう言って私の手を引っ張る姪っ子。

 5歳児恐るべし。

 観念した気分で姪っ子に手を引かれるまま、2階へ。ひとしきり「お店ごっこ」に付き合った後、満足した姪っ子に続いて1階に降りた私の顔には、明らかな疲労の色が現れていました。

「おかえりー」

 と、にこやかに私たちを迎える妹。妹の旦那はソファでくつろぎながらスマホを見ています。母も自室に引き上げたりせず、起きて居間の椅子に腰掛けていました。テーブルには3人分のカフェラテ。ああ、カフェラテ飲みながらのんびり雑談してたのね。一体どんなこと話してたんだろう? 興味が湧きましたが、それを知る機会は永遠に失われてしまいました。

「おじちゃん!!」

 嵐はますます勢力を増して、私を巻き込んで離さないのでした。

 

 

 6時頃、嵐を呼ぶ5歳児は両親に引っ張られて帰宅して行きました。

 私と母は夕食を取ります。夕食の後は放鳥。それを知っているセキセイインコのレトはもう臨戦状態。止まり木の上を左右に行ったり来たり、瞳は爛々として「出して出して」とアピールしていました。

「疲れたでしょう」

 と、母。私は苦笑い。

「まあ、ね。子供のパワーはすごいわ。50目前のおじちゃんにはついていけない」

 夕食はS内科の帰りにコンビニで買っておいた弁当。私は例によってパスタ、母はこの頃食欲がないので、小さな「一膳弁当」です。

 食べ終えると、私も母も食後の薬。私はカプセル二つだけですが、母はそうはいきません。大きな薬カゴを持ってきて、ごそごそ始める。

 多いな、と私は思いました。

 内科でもらっている薬は朝食後に飲むもので、つまりこれから母が飲もうとしているのはぜんぶ精神科で服用された薬です。

 母の精神科の薬については常々多すぎるのではないかと私は思っていて、以前、主治医あてに薬を見直せないか手紙を母に持たせたことがあります。でもその時主治医は、「転院するなら、その直前のタイミングで薬を変えるのは良くない」と言っていつもと同じ薬を処方していたのでした。

 母がごそごそやっている薬の袋をざっと数えてみると、7、8袋。しかも、一袋に一種類の薬が入っているわけではなく、朝だけ飲む薬とか、朝・夕に飲む薬、夕食後に飲む薬、毎食後に飲む薬…とややこしそうです。実際、今の母には難解らしく、母は同じ薬を取り出しては戻したり、また別の袋から薬を取り出したり、時には袋の中身をぜんぶテーブルにぶちまけたりと、苦労している様子でした。

 そんな母を見る私の耳には、レトの鳴き声が。早く出して、と催促しているようです。

「待ってね。母さんが薬飲み終わったら出してあげるから、お利口にして待っててね」

 そう言って視線を戻すと、母はまだ大量の薬を前に苦戦していました。

「母さん、ちょっとこれ見せてね」

 そう言って私が手に取ったのは、母の薬の説明書類。一般的には1枚ですが、母の場合は4ページに及びます。見ると「不安や緊張を和らげる薬です」とか「眠りに入りやすくし、よく眠れるようにする薬です」とか書いてありますが、同じ記述が何度も出てくるうえ、それぞれ服用するのが朝・夕食後とか毎食後とか就寝前とかみんな違っている。今の母がこれを全部把握しているとは考えにくい。これまで、飲み忘れや飲み過ぎなどがあったのではないか。

 精神系の薬は正しい用法で服用しないと、かえって悪影響がある。私は決意し、母に声を掛けました。

「母さん、ちょっと薬、整理しよう」

「整理?」

「母さん、薬、これぐちゃぐちゃでしょ。ほら、この薬だって、本当はこの袋じゃないもの」

「だって、薬多いから、母さん、わかんなくなっちゃって…」

「うん。だからちゃんと整理して、正しく服用できるようにしよう? 手伝うから」

 手伝う、と言いましたが、もう全面的に私がやるつもりでした。いったん、全部の薬をテーブルにぶちまける。それから、説明書類の薬の写真を見ながら、これはこの錠剤、これはこの小袋、と寄り分けて、正しい袋に入れ直していく。

 もちろんてきぱきと、とは行きません。基本的に今まで薬の扱いは本人に任せていて、母がどんな薬を飲んでいるか知ったのも、ごく最近のことなのですから。少し、いやかなり苦労しながら、それでも何とか薬を正しい袋に入れることができました。それを、薬カゴに、朝から飲む順番に並べて行く。こんな時、袋に「朝・夕食後」などと書かれていると並べる順番に迷うのですが、そういうものは結局最初に飲むタイミングに合わせるようにして、どうにか並べ終えました。

「よし、できた。どう、母さん? 少しはわかりやすくなったと思うけど」

 母は薬カゴを見て、それからゆっくり首を左右に振りました。

「…やっぱり、よくわかんない」

「…そっか」

 それじゃあ、仕方ない。

 これからは私が母の薬を管理することにしよう。

「いいよ。何とか自分でできるから」

「だって、よくわかんないんでしょ?」

「…うん」

「飲み過ぎとか飲み忘れとかあったら大変だから、これからは俺が母さんの薬、出すようにするから」

 レトも待ってるしね、と付け加える。

 そう。切実な理由がもう一つ。母が薬に手間取る分、レトの放鳥が遅くなってしまうのです。

「で、今夜飲むのはこれとこれとこれ。寝る前の薬は後で用意するから、まずそれ飲んで」

 母が薬を飲み始めると、私は母の薬カゴをしまい、レトのもとへ。

「遅くなってごめんね。今、開けるからね」

 入り口を開けると、待ってましたとばかりにレトが飛び出し、私の肩に。

 そして、

「遅いでち!!」

 とばかりに、私の耳たぶをひと噛みするのでした。

 

~つづく~

 

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レト「ぷんぷんでち!!」

 

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